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月刊メディカルサロン「診断」

心臓死は予防できるはず 月刊メディカルサロン2003年4月号

カツオやマイワシの不漁と心筋梗塞の関係

食生活が欧米化し、脂肪食が増えた昨今、心疾患で死ぬ人が年々増えていますが、特に、ここ半年、突然の心臓疾患で亡くなった人がたくさんいるような気がします。
高円宮様から始まり、かの有名な「峠の釜飯」の高見沢社長、さらに西田敏行氏ら、多くの著名人が心臓を患いました(西田氏は生き延びました)。皆さんの身の回りにもかなりの数の人が心筋梗塞でお亡くなりになったのではないでしょうか。

実は、ここ1年、日本近海のマイワシが不漁です。「カツオやマイワシなどの身近な青魚が不漁の年は心筋梗塞死が増える」という法則があるのをご存知ですか?第二次世界大戦の頃に、興味ある医学データがあります。スウェーデンやフィンランドなど、スカンジアンビアの国々では、1941年から1943年までの3年間、心臓死が減ったのです。当時、ヒットラーによる食糧徴発があり、満足な食事ができなかった頃でした。フィンランドでは、心筋梗塞で死ぬ人が、2~3年の間に半分になったほどです。

「粗食になれば心筋梗塞死が減る」という法則が、まず見つけられました。「粗食になれば」という部分が、さらに研究され、「脂肪食が減れば」というふうに訂正されました。1960年頃の研究成果では、「動物性脂肪の摂取が減れば、コレステロールが低下し、心筋梗塞死が減る」と結論づけられました。この頃から、動物性脂肪の摂取を減らして、植物性脂肪を摂取しようという運動があったのは覚えていることでしょう。

EPAの効能の発見

ところがエスキモーの疫学調査により、この流れは変わりました。「植物性脂肪の主成分であるリノール酸は、体内でアラキドン酸に変換されるため、血小板の凝集能を高め、心筋梗塞を起こりやすくする」という法則へとすすんだのです。

さらに「魚介類系の脂肪の成分であるエイコサペンタエン酸(EPA)、血小板の凝集能を低下させ、心筋梗塞を起こりにくくする」という法則へと進化したのです。第2次大戦中のノルウェーでは、食料不足のためにやむを得ず魚の消費量が増加し、その時期に一致して虚血性心疾患による死亡率が低下しました。魚食はそれほど、心筋梗塞予防に効果があるのです。

食生活の欧米化を健康管理でカバーする

日本はアジアのモンスーン地帯の最東部に位置し、周囲を海に囲まれ、食生活を含むライフスタイルには、欧米はもとより東南アジアとも異なる独自のものがありました。一言でいえば、魚食文化です。魚の調理方法に関しても、日本ほどバラエティーに富んだ国はありません。その日本で食生活が著しく欧米化しました。一言でいえば、動物性脂肪、植物性脂肪の摂取が増え、魚介類系の脂肪摂取の割合が減ったのです。
何かのきっかけで、心臓死が増える下地ができていました。そんなときに、イワシ、カツオの不漁がひきがねとなって、ここ半年、心臓死が急激に増えたのでしょう。心臓死は、正しい健康管理手法に従えば、必ず予防できる病気です。

「チェックの医学」で身体の状態を把握し、「予想の医学」で心筋梗塞発症の可能性を論じ、「身体改良の医学」で、心筋梗塞の発症を予防する。その手順に則って、予防することを考えていきましょう。読者の皆様が、心臓死を起こさないことをお祈りしております。

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