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月刊メディカルサロン「診断」

健康保険制度のゆくえ月刊メディカルサロン2003年9月号

医療費のしくみをご存知ですか?

ある調査によると、国民1人が生涯に要する医療費は2600万円にもなっているそうです。夫婦二人で5200万円の出費です。マイホームの購人資金以上の費用を健康のために支払っていたのです。自分の治療にそれほど莫大な費用がかかっているとは想像もしていません。いったいどこからそのような費用が捻出されているのでしょうか。

実は、給料から天引きされている健康保険の掛け金と、それとほぼ同額の会社負担分で捻出されているのです。つまり、自動的に「前払い」させられているのです。年収400万円の社員は、自分が病院とは無縁であっても、毎年約80万円を医療のために支払っているのです。病気になって、病院に行ったとします。その場で支払う医療費は3割の負担です。風邪をひいたなら2000~3000円ぐらいの支払いでしょうか。ということは、医療機関が実際に受け取る費用は6000~10000円ぐらいということでしょう。差額は保険基金から当該医療機関に振り込まれます。その金額が意外と安いことに驚きます。保険医療制度のいいところは、医師の診療費が安い公定価格に設定されていることです。ハワイで風邪をひいてクリニックを受診したとします。その1日の医療費は40000円ぐらいです。日本の医療費公定価格が安いことは欧米先進国と比較して群を抜いています。

天引き制度に無頓着な国民性!?

その保険医療の集金分配組織である健康保険組合は、赤字で四苦八苦しています。費用の多くは老人保険に対する拠出金です。健保組合の収入の40%は老人保険への拠出金になっています。つまり、年収500万円の社員と会社が支払っている保険医療費の掛け金80万円のうち、32万円は老人への医療費にあてられているのです。もともとそれほどの出費を強制されていることへの認識は低いといえるでしょう。

いつのまにか支払わされている出費に対しては日本人は非常に寛容なようです。介護保険の導入に伴う、たかが月額4000円の負担で大騒ぎしていたぐらいなのですから。一方で、国は納税者に納税意識を持たせなければいけないといって、消費税を外税にしています。5%の外税のために国民の消費意欲が急低下したのも、また事実です。消費税は外税にするのではなく内税にして、タバコやお酒と同様に、気が付かないように支払ってもらうのが正解でしょう。

保険医療制度が生む医療費と治療のバランス

ところで、医療現場における本人の負担が少ないことをいいことに、不要な医療行為の実施が目立ちます。医療費を高騰させた原因のーつです。

私がまだ若い頃、パートで行った診療所のオーナーらしき女性に叱られた思い出があります。「先生、だめじゃないですか。今日は放射線技師が来ている日ですよ。せっかく風邪ひいてきたのだから、レントゲンぐらい撮ってくださいよ。それと、気管支炎ということにしてください。そうすれば、抗生剤が保険で出せるのだから」悲しい現実であるといえるでしょう。

老人医療の医療費を投薬量や検査量に比例する出来高制にすると、検査や投薬がものすごく増え、治療内容に影響されないーヶ月の医療費を固定する制度にすると、とたんに検査や投薬が減るのも悲しい事実です。

一方で投薬された患者は、少ない費用負担で検査してもらえたことに喜びを感じています。日ごろ支払った掛け金を取り戻そうと、いざ白分が受診したときは、多くの検査、多くの投薬を望んでいるのも事実です。保険医療制度の根本的な改革は至難の業のような気がします。

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