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月刊メディカルサロン「診断」

プライベートドクターシステムはなぜできたか?月刊メディカルサロン2005年8月号

人間ドックでわからなかった病気

私は医師になって最初の4ヶ月を消化器内科で過ごし、次の4ヶ月を腎臓・内分泌・代謝内科で過ごしました。がんの末期患者との壮絶な治療はたびたび経験しましたが、まずまず平穏無事な4ヶ月でした。平成元年のことでした。

あけて平成2年、神経内科を学ぶことになりました。いきなりその数日後です。意識不明の重態患者が救急車で運ばれてきました。救急外来に搬送された時点で、全身の力が抜けてぐったりとしており、呼吸は停止しています。同伴者の言葉から大手都銀の支店長で、年齢は42歳、支店長に就任して7日目であることがわかりました。その直前まで2年間のニューヨーク出張で、単身赴任をしていたそうです。

「一緒に昼食を食べているとき、ウッと叫んでそのままテーブルから崩れ落ちたのです。その直前まで一緒に仕事していたのですが・・・」

病名はクモ膜下出血でした。人工呼吸器を装着し、呼吸を維持させると、とりあえず心臓は動き続けてくれました。まもなく奥さんが駆けつけてきました。

「3~4日前から、頭痛がするといっていたのです。市販の頭痛薬を飲んでいましたが・・・。今まで頭痛がするなんて一度もいったことがない人なので変だなと思っていたのですが。でも、ニューヨーク出張から帰ってきてすぐの健康診断(人間ドック)で異常なしといわれていたので・・・」

まさに信じられない、という状態です。その患者は治療の甲斐なく一週間後に死亡しました。

予防医学の充実は健康管理の充実につながる

この患者を経験しながら、私には1つの疑問がわいてきました。直前に人間ドックを受診し、異常なしといわれていたことです。そういえば命にかかわるような突然の健康トラブルを起こして救急車で運ばれてくる人が、日ごろの健康管理をおろそかにしていたかというと、そういうわけではありません。慶應病院に運ばれてくる人は、ほとんどが毎年の健康診断や人間ドックを欠かさず受けています。にもかかわらず発症しているのです。このことについて先輩に尋ねてみました。

「まあ、仕方ないな。人間ドックは健康を保証するものではない。医師側の立場からみると保険で治療できるような定められた異常項目を持つ潜在患者を探し出すことが目的だからな。現状の医学では未来の健康を保証してあげるのは難しい。われわれは治療することに全力を集中しておけばいいのだよ。患者が人間ドックにクレームをつけてきたら、ドックで検査した時点ではどうだったが、時間がたった今のことはわからないと答えるようにしなさい」

変なアドバイスを兼ねていましたが、予防医学は未熟だということを論されました。しかし、実際に予防医学が未熟なのかというとそうではないはずです。予防医学は進歩しているけでも、それを使いこなす医者がいないだけではないかと思いました。その頃から私の決心は固まってきました。

-ようし。それなら、「私がみている限り、あなたは決して死にません」という医学を築いて、実践してみせよう。「決して」というのは無理だが、確率論に置き換えて、できる限り確率を高める医学を築いてみせよう-と。

この思いが、後にメディカルサロンの創業へと駆り立てて、顧問医師の立場から健康管理指導を行っていくプライベートドクターシステムを作り上げていく原動力となったのです。

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