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月刊メディカルサロン「診断」

破綻している医療構造を救うには?月刊メディカルサロン2008年7月号

平成5年、私がまだ30歳の頃新聞を読んでいて、ある大病院の院長先生が発した次のコメントに怒りを感じました。

「エステに行くというと何十万円も払うような人が、病院での治療費数千円を高いと文句を言う。けしからんことだ」

このコメントには、まさに医師という職種の者が持つ特徴が内在しています。「けしからんことだ」の一言です。患者側の金銭感覚を避難し、「自己の持つ医療機関が利用者に満足と納得を与えられていない。だから数千円の支払いに対して文句を言われている」ということを認めようとしません。自分自身が崇高なものであるという意識が根底に潜んでいるから、利用者に対して「けしからんことだ」と発言できるのです。その心底には「たかがエステのクセに」という他の職種を軽く見ている意識も潜んでいます。

私が感じている限り、日本の多くの医師が似たような心構えでいます。社会をよく分析して、

  • 「なぜ医療機関は患者に満足と納得を与えることができないのだろうか」
  • 「来院してよかった。来た価値が十分にあった、と患者に思わせることができていないのはなぜだろうか」
  • 「医療機関はエステに比べて何が劣っているのだろうか」

という発想に行きつきません。頭ごなしに「たかがエステのクセに」と思い、「他のところでは大金を払っているのに、医療費自己負担に対して高いという患者がけしからん」という発想が原点に存在します。一方では「自己負担を高くすると患者が利用できなくなる。医療保険制度をもっと工夫せよ」と要求したりもしています。「自己負担が高くなっても、患者が喜んで利用してくれる医療現場作り」というものを考えようとしません。

患者と接する医療現場の構造が、ここ50~60年はまったく進歩していません。一言で言うならば、「医師が診察室に閉じこもり、患者との接点をそこだけに限局し、事務系職員を含む他の医療スタッフも患者との間に人間関係の壁をつくっている」という現場構造が進歩していないのです。自己の改革を忘れ、他者のせいにばかりしているのが、今の医療機関です。

これらは医師だけでなう行政側もわかっていないように思えます。私に対し検察官は、「何でエステなんかやろうとしたの?」という質問をしてきました。その心底には「医師であるあなたがなぜ、レベル違いの職種であるエステを運営しようとしたのですか?」という思いが潜んでいます。私は怒りを感じながら、「エステサロンをバカにしていませんか?人と接して役務を提供する際の心構え、役務提供の現場の構造は、エステティックのほうが医療現場よりレベルが高く、医療機関が学ばなければいけないことがたくさんある」と言い返したものです。行政側も医療システムが抱えている問題点の急所がわかっていないということです(検察がわかっていないだけかもしれません)

賛否両論ありますが、後期高齢者医療制度の新設など政府は医療制度を改革していかなければいけないと深く意識し、努力しています。努力の気配がまったく見られないのが医師側であり、そのために医療現場の構造はまったく進化していません。「患者と医療従事者が接する仕組み」に大きな変革を起こさなければ、政府がどんなに制度改革に取り組んでも患者f側の満足を得られる医療システムにはなっていかないでしょう。逆に、患者に満足・納得・安心を与えれられる医療現場を作っていくとこが、崩壊している医療航続を救っていく急所になるのです。それが全医療機関に浸透したときに、医療費を課題とする制度の問題は初めて解決されるのです。

なお、ここで「患者一人にそこまでしても、それを支える資金(保険点数)が・・・」と反論する者がいたなら、その物は「世に必要とされる事業を成し遂げる考え方を実践的方策がわかってるということになります。

医療の全体構造はすでに破たん状態にあります。行政側の取り組みに加え、「患者との接点がある現場」をどう改革していくのか、という医師側の取り組みが強く要求されている時代になっているのです。メディカルサロンが先鞭役となって多少は開拓しました。この芽を生かして、次のステップへと進めていきたいものです。

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