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月刊メディカルサロン「診断」

資産蓄積月刊メディカルサロン2012年4.5月

社会人になったら、一生懸命に仕事して、資産を蓄積し、老後に備えなければいけません。この心構えが希薄であると、老後に「生活できない」という悲惨が待ちうけることになります。ところで、この心構えは昔から存在したのでしょうか?

老後に備えて戦後すぐの頃は、平均寿命が52歳程度でしたので、「老後に備えて」という心構えはなかったことと思います。昭和20年代、30年代は親子三代の大家族的生活が普通でしたので、老後は成人した子供たちと一緒にいるという気持ちが支配的で、やはり「老後に備える」という意識は希薄だったのではないでしょうか?

私は昭和38年生まれですが、幼少時の頃、おじいちゃん、おばあちゃんは、私の叔父、叔母と同居していて、共同生活を営んでいました。戦争中に成人時代を過ごした祖父母には、老後に備えるなどの思いはなかったことでしょう。祖父母の世話をするのが当たり前だった叔父、叔母も、将来は子供との共同生活を当たり前のようにイメージしていた筈ですので、「老後に備える」の観点は乏しかったと思います。親は子供を育てるのに莫大な資産を投入してきました。だから、老後は子供が親の生活を保障する、というのが常識だったのではないでしょうか?

嫁と姑のトラブル問題をドラマなどで取り上げるようになったのが、昭和50年代だったと思います(40年代には芽生えていたかもしれません)。その頃から、両親と同居しない核家族化が急速に進行しました(実は、この核家族化は政策的に推進された要素を持っています)。と同時に、医療の進歩が重なって、平均寿命がどんどん伸びて行きました。
というように考察していくと、「リタイア後には老夫婦2人での生活になる。当然、生活を営むための資金問題が生じる。子供への莫大な投資は掛け捨てになる。別枠で蓄積しなければいけない」という思いが芽生えたのが昭和50年代で、その思いが確立したのは昭和60年代から平成になってからのように思います。今(平成24年)は、平成元年に40歳前後の働き盛りだった人達がリタイアする世代になっています。
今、リタイアする世代は子供も2~4人いて、莫大な子育て資金を投入してきました。しかし、それでも高度経済成長、バブル時代の経済的盛り上がりを体験して、よほどの投資損失を出した人以外は、老後を営む生活資金の蓄積ができています。

今の20歳代から40歳代はどうでしょうか?出生率が低下し、子供への資金投入は減りましたが、経済が低迷する中、所得が増えず、それでいて、高齢者の生活を支えるために莫大な資金拠出を余儀なくされています。資金の流れの社会構造が、昔の「現役世代が自分の子供へ自ら支出する」が変貌し、今は「現役世代から徴収して高齢者へ配分する」になったのです。

今の若者は夢も希望も失っています。夢と希望を失った者たちに、「寝食を惜しんで仕事に取り組み、経済を盛り上げよ」と叫んでも、虚しく響くだけのことでしょう。今の20歳代から40歳代は、そのような社会情勢の中で、資金的蓄積さえできないまま年齢を重ね、リタイア世代になっていきます。唯一の望みは相続財産である、と言っても過言ではありません。相続財産に依存すると貧富の差がますます拡大します。努力の差ではなく、運の差による格差社会化を迎えることになるのです。社会革命が起こっても不思議ではない危ない社会構造です。GHQ主導下で行われた農地改革に匹敵する改革が必要になるかもしれません。

現役世代の者たちは心の奥底で叫んでいます。「豊かな高齢者から徴収して貧しい高齢者に配る、という資金移動中心の国に変えて、現役世代からの収奪はいい加減にやめてくれ」と。そして、ほとんどの若者は見抜いています。「年金の掛け金や消費税増税は、国側が今、お金を集めたいだけで、将来配ることには本気になっていない」と。さらに、その背景には、「高齢者の票が欲しいだけの政治家しかいないのだ」と。

さて、そんな社会の中でも、社会人になった限りは、いや、この世に生を受けた限りは、日々、資産蓄積に励まなければいけません。日常のあらゆる活動で自己の資産を増やしていかねばならないのです。

ここで、資産とは何かという問題が生じます。たいていの人はお金しか思い浮かんでいないと思います。それが間違えているのです。資産には4種類あることを意識しなければいけません。

資産には4種類ある

まず、人生を歩むのに一番大切なのが「知的資産」です。知的資産とは「自分が健康で五体満足であるなら、自分の頭脳や身体からいつでも出せるもの」のことです。
勉強して脳内にインプットしたものはすべて知的資産ですし、身につけたテニスやゴルフなどのスポーツの技量も知的資産です。子供時代は、親からの教育、学校教育を基本として知的資産を身につけます。社会人になったら、経験を大きな元として、読書や先輩から学び、知的資産を増やします。商品開発力、営業販売手法、経営手法、人事や労務の管理技術、パソコン操作技量、初めて会った人に気に入ってもらう手法などなど、すべてが知的資産です。ノウハウと単純に表現することもしばしばです。
知的資産の習得に関するキーワードを2つ記しておきます。

「親に仕えることからはじまり、君に仕えることを中程し、身を立てる、の順序である」
「一を聞いて十を知り、一を見て百を知り、一を経験して千を知る」

次に大切なのが、「人的資産」です。人的資産とは、自分を信用してくれる仲間のことです。知的資産を獲得するための活動を中心として、この人的資産は形成されていきます。人に思いやりを持って接し、親切にして、苦しんでいる人には手を差し伸べて、自分の労力で人に尽くしてあげる、という行いの中から人的資産は形成されます。人的資産の豊富さが、その人の人望そのものであることは言うまでもありません。

そして、もうひとつ大切な資産が「名声」という資産です。他人が自分をどのように噂しているか、というものです。この資産は自己の運命を左右します。自分の親を大切にしているか、粗末にしているかが、この名声の重要ポイントになります。親を粗末にしているという噂のある人に、協力しようと思う人は現れません。逆に親を大切にすると、親は「うちの息子はこんなに親のことを思ってくれている」と機会あるごとに言いふらしてくれますので、いつの間にか自分の名声が高まっています。この親孝行を起点として、日常の信用ある行動、他人を思いやる気持ちなど、知的資産、人的資産の結果は名声として現れるのです。高まった名声は、まさに自分にとっての巨大な資産です。

最後の資産が、「財的資産」です。つまり蓄えたお金です。お金は4つの資産のうちの1つに過ぎません。多くの人が財的資産だけが資産だと思っているのは嘆かわしいことです。
財的資産は親からの相続遺産でない限り、じっとしていて得られるものではありません。長年の努力によって蓄積した知的資産、人的資産、名声を元手として得られるものなのです。たくさんの知的資産、人的資産、名声を蓄えた人ほど、たくさんの財的資産を蓄えることができます。知的資産、人的資産、名声が乏しいのに、お金が欲しいと思っても極少のお金しか得られません。
仕事の世界でも、お金だけを追い求めると人的資産と名声が低下して、結局はうまくいきません。また、人的資産や名声を切り売りしてお金を得る仕事がありますが、それは合計すると資産を増やしたことになりません。知的資産、人的資産、名声を増やすことができて、なおかつ財的資産を増やせる仕事に取り組むことができれば、その者は幸せです。

生まれた時から、まずは両親の庇護のもとで知的資産を増やすことに努めなければいけません。幼少時はその機会を親が与えてくれますが、小学生、中学生になったら、できる限り早いうちに、自ら欲して知的資産を求めるようにならなければいけません。親は、わが子が自ら欲して知的資産の獲得を求めるように仕向けなければいけません。高校生、大学生になったら、子供はそれまでに獲得した知的資産を元にして人的資産づくりを意識しなければいけません。そして、両親を大切にする中で名声を高めるのです。そうすると社会人になった時に、順調な人生へと旅立つことができるのです。社会人になっても、日々、知的資産、人的資産、名声、財的資産を増やす努力を続けなければいけません。ここで、現代人が忘れがちなキーワードをひとつ記しておきます。

「夜、学ぶ者は成長し、夜、遊ぶ者は廃れていく」

学生時代は夜、一生懸命に勉強しました。それなのに社会人になったら夜、ストレス発散や息抜きで遊ぶ傾向が強くなり、夜に学ぶ心構えを失いがちです。夜に学ぶことが資産を蓄えていく鍵なのです。

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