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月刊メディカルサロン「診断」

学者として月刊メディカルサロン2012年9.10月

私は慶應義塾大学医学部を卒業した後、2年間の研修医を勤め、その後大学院(医学研究科博士課程)に入学したという経歴を持っています。このことからわかるように、私がもともと志向していたのは学者の道なのです。たまたま命じられた消化器内科外来を勤めるうちに、健康保険制度下の診療現場に対する疑問を多く感じ、持ち前の正義心から発して、四谷メディカルサロンの創業に至ったのです。今回は、学者としての観点で私の軌跡を語ってみたいと思います。

まず、平成4年当時に診療現場で感じたのは予防医学という学問の未熟さです。人間ドックや各種の検査は普及していましたが、その実態は「健康保険で治療できる病気を持つ人を探し出す」ということのみが目的の、パート医のアルバイト先にしかなっていませんでした。この未熟な学問を大成させなければ、と思ったものです。そのためには、検診のように集団をターゲットとするのではなく、個人をターゲットとして、その人が生涯を健康トラブルなく送るにはどうしたらよいかを徹底研究する必要がありました。それがプライベートドクターシステムの始まりにほかなりません。

現時点で健康な人をターゲットにするのですから、病気の人をターゲットにする健康保険の診療現場とはまったく異なるものになりました。すぐに気づいたのは、「豊富なコミュニケーション」が必要であるということと、「その人のポリシーを中心にしなければいけない」ということです。病気の人を相手にするときのように、医者側の主張で押しても、絶対に通用しません。この苦労は、別の機会があったら語りたいと思います。

豊富なコミュニケーションの中で、自分の身体に求めるものを聴取しているうちに、「健康管理に三態あり」に気づきました。つまり、長く生き抜くことを目的とする寿命管理、元気で疲れ知らずで、意欲高く生活できるようにする体調管理、そして、若々しい姿を維持する容姿管理の三点です。各々に学問を築くことになりました。

プライベートドクターシステムの運営では、実践的に要求される指導としてダイエット指導がありました。そこでふと気づいたのですが、「ダイエット指導」を支える従来の学問が極めて未熟でした。摂取カロリーと消費カロリーの相関図式程度のものしかなかったのです。指導現場における心理戦は、従来の学問の中にはありません。健康保険の現場でのダイエット指導は、押し競饅頭的な要求を押し付けるだけのものでした。継続には意欲が必要で、その意欲を注入する方式がありません。未熟の極みです。幸い食欲抑制剤としてマジンドールが認可されているのに、それを活用するバックグラウンドさえありませんでした。そこで、平成5年ごろから、私はマジンドールを中心に据えたダイエット指導の法則を精力的に築き上げ、体重管理学という学問をまとめました。この体重管理学は、健康管理指導士養成講座の教科書の中に整理されています。研究過程で、『お医者さんが考えた朝だけダイエット』(三笠書房)を発表したところ、大ベストセラーになったのは周知のことと思います。

平成10年、入社してきた元エステティシャンが盛んにアピールしていたこともあり、容姿管理の観点から、胎盤エキスであるプラセンタに注目しました。容姿管理といえば皮膚や体型の問題になりますが、私は内科医ですからどうしても身体の中からの素肌管理に意識が傾きました。この「身体の中から」の観点に立つと、胚芽細胞と線維芽細胞と皮下血流に注目することになります。プラセンタは胚芽細胞によく作用するようで、学問的関心からこの分野の研究を進めました。そしてその成果は、『お医者さんが考えた一週間スキンケア』にまとめました。「身体の中から」という切り口に加えて、素肌管理としてのプラセンタに注目した初めての一般向け書籍だったので、この本も11刷を数えるベストセラーになりました。これによりプラセンタ注射を希望する人が日本中からメディカルサロンに集まりました(今では日本中の皮膚科、美容外科がプラセンタ注射を行っています)。

また、線維芽細胞には成長ホルモンが良く働きかけるようで、この分野に強い関心を持った結果、成長ホルモンの舌下投与型スプレーを独自開発するという成果へとつながりました。体力、気力にも強いプラス作用を持つ成長ホルモンについては、後にエイジングリカバリー医学としても、深く研究していくことになります。

皮下血流を研究し、行き着いたのは、青魚成分であるEPAでした。これは血栓症予防の体質作りにもつながり、後にEPAの医学として大成させました。素肌に対する話は、『お医者さんが教える3日でヌード肌』(大和書房)に、血栓症予防に関する内容は、『自分の寿命に管理する本』(東京新聞出版局)にまとめられています。

さて、容姿管理目的で実践利用していたプラセンタ(胎盤エキス)ですが、長く続けている人をよく分析してみると、素肌への効果に加えて「疲れなくなった」「よく眠れるようになった」「肩こりがなくなった」という効果に浴している人が多いことに気づきました。「疲れなくなった」という効果のために継続している人が多いという事実の中で、私はふと思いました。そういえば、健康保険の診療現場では、「最近、疲れやすいのです」という相談に対して、健康保険の医療が「検査しても異常ありません。年をとったのだからやむを得ないです」と応えるだけで、相談者の悩みの解決になっていないな、と。平成10年ごろからは、疲労回復の医学を研究したものでした。その成果は、『自分の寿命に管理する本』(東京新聞出版局)に盛り込みました。

プライベートドクターシステムの会員に長生きしてもらうために、世界中の医学を総動員して考えているうちに、予想医学という概念に目覚めました。人の身体の未来像を医学的見地から予想し、例えば心筋梗塞、肺ガン、胃ガンなどの一つ一つの病気に対して、「その病気にかかりやすい身体」「その病気にかかりうる身体」「その病気にかかりようがない身体」に3分類していくことが、長生きしてもらうための指導をするうえでの学問的根拠になるということに気づいたのです。この予想医学は、遺伝子医学の応用でさらに深まっていきました。

一方で、平成10年に独自に開発した成長ホルモンの舌下投与型スプレーを使用している20歳~60歳の人から、「2cmほど背が伸びた」という話を聞くことが増えてきました。多い人では「6cm伸びた」と語る人もいました。聞いた当初、私の気分は「???」でした。私自身が「骨端線が閉鎖している年齢では、もう背は伸びないはずだ」という過去に学んだ学問的偏見に凝り固まっていたからです。医学は人体に実際に起こっている現象を研究することから始まります。医学があって人体が存在するのではありません。「骨端線が閉鎖したら、もう背は伸びない」という医学部で学んだ学問より、「実際に背が伸びている人がいる」という現象を重視しなければいけないのです。厳しく反省して、「椎間板、あるいは骨端の軟骨に伸びる余地がある」あるいは「長幹骨に散在する骨芽細胞が反応を起こしたときに長幹骨本体が伸びる」という仮説を立てて、この研究を推し進めました。私自身、もともと170.9cm(夕方の測定)だった身長が、成長ホルモン舌下投与型スプレーを使っているうちに、172.4cm(夕方の測定)になっています。このことをさらに研究し、『背がどんどん伸びる本』(三笠書房)で発表しました。さらに、「背を伸ばす医療」を求めて大勢集まってきてくれた人たちに治療を施しながら研究を深めました。
「子供の背が低いのです。なんとかなりませんか?」という相談に対し、健康保険の医療が検査した結果、「病気ではありません。体質的に低いだけです。そのうち伸びるでしょう」と応えるだけで、相談者の悩みの解決になっていないことも健康保険医療の重大問題で、私には追い風になりました。
概念として膨らんでいた予想医学とも合体し、「最終身長予想の法則」を生み出して、背を伸ばす医療の診療体系を築き上げ、『わが子の背をすくすく伸ばすには』(メディカルサロン)、『なぜ「あと5cm」背が伸びなかったのか?』(宝島社)で発表しました。子供が幼いほど最終身長を高くしてあげられることは間違いありません。

「健康保険でカバーできない医療」「健康保険でカバーしてはいけない医療」の中には、新たなる研究テーマがたくさん潜んでいます。このように執筆している今も、私は健康管理に関するさらなる学問作りをもとめています。それらの成果は、私が65歳になったときに、世界中の医学界で発表しようかなと思っています。医学界といえば、若い医師(医学者)が名をあげるための場という見方もあり、それゆえに怪しいエピソードも多発しますが、私の場合、既に民間で名をあげた故に、学会で名をあげることに関心はなく、純粋に学問を愛して発表していく場にしていきたいと思っています。

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