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月刊メディカルサロン「診断」

新型コロナウイルスからの妄想掲載日2020年4月3日
月刊メディカルサロン5月号

さて、問題です

ある国にウイルスが入ってきました。そのウイルスに感染する可能性のある人たちが一億人います。すでに流行しているわけではありません。これから流行しそうになっています。そのウイルスに対するワクチンを開発できるまでは、1年ほどかかりそうです。
一億人のうちA群の7000万人は、感染してもちょっとした風邪ですみます。B群の3000万人は、感染したら命が危うくなります。さて、どうするべきでしょうか?
そのようなクイズがあったら、皆さんはどのように答えますか。

答えは・・・

A群、B群の両方に自粛した隔離生活を要求すると、1億人を生活させている経済が壊滅します。ワクチンが開発される頃には、経済が回復不可能になっているかもしれません。経済が回復不可能になると、国そのものが崩壊します。仮にA群が現役世代、B群が高齢世代だとすると、1年後にはA群は自給自足的に生きていけても、A群がB群を支えることができなくなっています。となると、B群は苦境に立たされます。

ということは、正解は、
「B群の3000万人を非難させ、隔離する。1年間は他の者と接触させない。A群には今までどおりの経済活動を営んでもらう」
ということになるのでしょうか。

Stay home

日本における新型コロナウイルスの話をしましょう。A群は現役世代、B群は高齢世代です。
政府は、先ほどのクイズの答えにならって、
「75歳以上の高齢者は外出しないでください。家に閉じこもって、子や孫を含め、誰とも接触しないでください。1年間の辛抱です」
という要請を出すことはできるのでしょうか。

できないでしょう。なぜなら、75歳以上は選挙において投票率が高いからです。その世代の不興をかうような発想は、端から除外されています。その結果、現役世代全員に対し、不要不急の外出をするな、という自粛要請になるのです。
おしゃれをして街を歩いている高齢の女性が、テレビカメラの前でインタビューされていました。
「若い人たちが街を遊び歩いているでしょ。ほんとに困りますわね」
なんとなく違和感がありました。そのおばさまが出歩かなければいいだけなのです・・・。
私は自分の知り合いには、新型コロナウイルス(COVID‐19)には絶対に感染してほしくありません。特に高齢のPDS会員には、何が何でも感染してほしくありません。そうなると、要請するのはただ一つ。
「家でじっとしていてください。外出しないようにお願いします」
と伝えるだけです。

ネズミの本能

渋谷で遊んでいる若い女性が、インタビューされていました。
「私の周りでは誰も感染していないし、家でじっとしているには我慢の限界があるし」
飄々(ひょうひょう)と答えるその姿を見て、インタビュアーは諭すように、
「症状のない若者から高齢者に感染させると一大事だと思いませんか」
そんなことは眼中にない。尋ねられるのも不本意だという態度を示すその女性を見ながら、私は愕然としました。
「あれ、この若者、高齢者に死んでほしがっているのかな」
頭の中に、ネズミの本能が思い起こされます。
一定の広さのところに一定の量のえさを毎日与えて、ネズミを雄雌セットで買い始めます。最初は、どんどん子供を産んでネズミは増えていきます。しかし、ある一定のところで繁殖をやめてしまいます。えさの量を正確に計算しているのではありません。ネズミは本能で、子供を産むのはここまでと悟ってしまうのです。皆が食べていくための適切な範囲を、本能で悟るのです。
「自分の親以外の高齢者は死んでくれて構わない。そうしたら、自分たちの負担は軽減される」
インタビューを受けている女性は、そのようにアピールしているように見えてきました。その番組が、世代間の対立を煽りたい意図を持っていたのか、結果的に煽ってしまう構成になったのかはわかりません。

世は少子高齢化を社会問題としています。政府が努力して、子供を産みやすい環境を作っても、子供を産んでくれません。本能的に生むべきではない、と思っているのです。
「今、子供を産んでも、この高齢者社会では、大切に育てた子供も高齢者達の収奪対象にされてしまう。かわいそうだ」
というのを本能で感じているのでしょうか。
余計な妄想を抱かせたインタビューでした。

行き着くところ・・・

何はともあれ、政府は全国民総自粛の方針をとっています。緊急事態宣言などはその延長に過ぎません。
もしも現役世代の投票率が非常に高く、高齢者の投票率が非常に低いのなら、政府が異なる方針をとっていたかもしれません。
仮に高齢者全員を、「地方の隔離された温泉にでも行って、1年間のんびり過ごしてきてください」と言い、その費用を国が負担したらどうなるでしょうか。
都市部では、現役世代だけが残ります。いつもどおりの生活を行って、経済は回復します。コロナウイルスは大蔓延します。インフルエンザでさえも肺炎や脳炎を起こして重傷になることがありますから、一定の数の人は重症化するでしょう。対処方法をきちんと分類すると、医療崩壊が起こるほどにはならないかもしれません。そうしているうちに、ワクチンが開発され、新型コロナウイルスは征服されました。
なんていううまいストーリーにならないのが、この世の常です。非難している高齢者にも蔓延し、大勢の重症患者が現れ、医療は崩壊し、人口の5~10%が減ってしまうでしょう。

やはり、自粛の毎日で、感染の蔓延を少しでも遅らせながら、ワクチンの開発を待つしかないのです。

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