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月刊メディカルサロン「診断」

健康管理の学問化月刊メディカルサロン1999年4月号

私は今年の9月で36歳になります。早いもので四谷メディカルサロンを興してから7年の歳月を送ったことになります。これまでの36年間でなにか世の中のために役立てただろうかということを考えると、実に恥じ入る気持ちになってきます。
旗揚げした当初の願いは、日本の医療システムに改革を行うことでした。
「3時間待ちの3分診療」「説明不足」「インフォームドコンセント」「検査づけ」「薬づけ」など、まとめると「医師不信つのる」と叫ばれた平成元年からの時代の患者側の要請にこたえようと考えたのが、四谷メディカルサロン創立のきっかけでした。当初のころは、説明不足に対処するための説明方法の研究に躍起になったものです。

医療をテーマとして多くの人とコミュニケーションをとるうちに、健康管理というものの重要性に触れることになりました。どの人も健康でいたいと願っています。大学病院の一室やパートで出かけたクリニックで診療にあたっているときは、その願いの大きさには気がつきませんでした。「病気を治療する」という絶対的なテーマに取り組んでいたからです。

四谷メディカルサロンを開設してからは、人との接点と会話を大切にするというテーマから、病気をみるというよりも、まず人をよくみるようになりました。そうすると、それまで必死に取り組んでいた病気の治療というものは、健康管理の枠組みの一部分に過ぎないということに気づくようになったのです。

平成4~5年ごろ健康管理という用語は実に漠然としていました。
「散歩しています」「塩分を控えています」「年に一回人間ドックに行っています」「3食きちんと食べています」「早寝早起きしています」など、もっともらしい生活態度を健康管理と置き換えられている程度です。「早寝早起きなんていうけれど、では夜仕事している人はどうなるんだ。健康維持はできないというのか」や「私の父は、年に1回の人間ドックを欠かさなかったのに70歳で死んでしまった。どうしてくれるんだ」などのクレームに応える術がありません。
また、健康関連商品を販売している人達が、医学的に根拠のはっきりとしない健康管理論をまくし立てていることがよくあります。商品販売のためのセールストークを健康管理と勘違いさせているのです。
平成9年ごろからは、健康ブームを受けてテレビの番組で放映される内容のものに、しっかりとした医学的な根拠づけのできるものが増えてきました。しかし、テレビ番組には基本的にスポンサーが関与しています。その影響が色濃くでていると思えるものが、まだまだ大半を占めています。
そのような背景の中で、メディカルサロン創立7年を超え、今年36歳を迎える私の生涯テーマも定まってきました。健康管理を学問化することです。
従来の医学は、内科学、外科学、小児科学など、各単位となる科ごとに診断学、治療学に分けられています。いずれも、何かの病的状態を訴えるところからスタートする学問です。健康管理学はそれらに先行する医学体系です。その医学体系を学問として築き上げることが私の生涯テーマとなるのです。新しい1つの学問作り、生涯テーマとして不足はありません。
健康管理学は従来の医学のように医師が利用するために存在するものではありません。すべての人達が利用するためのものなのです。したがって、多くの人のポリシーに触れ、対話を繰り返しながら、築いていくものであると思っています。

メディカルサロンは新しい学問を創り上げる場としてふさわしい場である、と私は自負しています。

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