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月刊メディカルサロン「診断」

3倍働く月刊メディカルサロン2000年4月号

数年前、テレビで「一代できずいた億万長者達」という番組を見ました。全国的に著名な大企業を創業した話ではなく、各地方内で大成功を遂げた人の半生を特集していました。それぞれの成功者は「私の成功までの道のりは…」「事業というのは…」「人づかいのコツは…」などと、思い思いに論を語っていました。それぞれに含蓄はあります。

その番組に私の叔父が登場していました。10歳台のときに親元の大阪から青森に単身で移り、まったく知人のいないその地で、丁稚奉公を始め、やがて一旗揚げて、奇跡的な成功を遂げた叔父です。東北地方一帯でその叔父の社名を見かけます。

「成功の秘訣は何だったのでしょうか」とたずねるインタビュアーに、その叔父はポツリと一言だけ答えました。

「私は人の3倍働きました」

先日、まだ30歳に満たない若い女性で、非常によく仕事のできる人に出会いました。私が見ていても、たいしたものだと思える実力を持っています。

いろいろな話をしてみました。応答も穏やかで、物腰も安定しています。生活における仕事の位置付けも、女性にありがちな「プライベート重視」という語は出てきません。その女性を見る限り、雇用に関する男女均等論も、十二分に納得できます。仕事は、営業職ではありません。しかし、その会社の他の社員が語るところによると、その女性の給与は固定で手取り月額40万円ぐらいあるそうです。ボーナスも破格的と語っていました。

「いくらなんでも、中小企業に事務系で勤める若い女性で月額40万円とは…」と、不思議に思いました。興味を持って、その女性の仕事スタイル、生活スタイルを観察してみました。

仕事の都合で会社に電話をかけると、夜の10時、11時でもあたりまえのように会社にいます。朝は9時前には出勤しています。土曜日ももちろん出勤しています。特に、仕事がこみいっている訳ではないのに、日曜日もしょっちゅう出勤しています。

「日曜日まで仕事して大変ですね」と語りかけると「日曜日の場合はタイムカードを打たないからかえって気楽です」と返事してきます。どうしてタイムカードを打たないのかと尋ねると、「能力が足りないから日曜日も出勤しているのだろう、と思われるのがいやなんです。だから、タイムカードは打たずにこっそりと仕事をしているんです」と答えました。

給料が増えたから、たくさん働いているのではありません。仕事に対してそれほどのプライドがあるから、給料が増えたのです。たくさんの仕事をこなしながら、同時に仕事の技量を高めているのです。その女性はどこで働いても、優遇されるでしょう。

ふと、叔父の言葉を思い出しました。「私は人の3倍働きました」その女性は確かに人の3倍働いています。本能的に3倍働くのです。

多くの経済評論家が「経営者達が、バブルの異常な時代のことを忘れられないでいる。それが問題だ」と指摘してます。

そういえば、先日、会員のある社長と話をしているときに、「バブルの頃のことさえ、忘れられなければ、景気はいいといえるんだけど…」と語っていました。

バブルの頃を忘れられていないのは、経営者だけでなく、労働者側も同じかもしれません。バブルの頃、「給料は増やせ、労働時間は短くしろ」などと叫んでいたときの夢から覚めていないのでしょう。「社内での活躍度は低くても、給料はしっかりもらえるものだ」という潜在的意識が植え付けられているのです。雇用不安が社会問題になっていますが、その潜在意識ゆえの雇用不安なのかもしれません。

人の3倍働こう、という人だけが、その後の成功人生を勝ち取っていけるのです。

とはいっても、世の中そんなに簡単ではありません。人の3倍働けば、必ず成功できるのかというと、そうとは限らないのです。人より多く働いた分を自分の成功に活かしていくノウハウが別に必要です。そのノウハウを得られるまで自分を高められた人だけが、結局はその人の運命を決めていくといえるのでしょう。

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