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風本流医療構造改革・論議編

その17「国民医療費の考え方」

日本における医療費の現状

日本の医療費は、総額で年間34兆円だそうです。今回はこの数字に関して風本流に議論してみたいと思います。

34兆円の内訳は、健康保険の掛け金として徴収された分、患者の自己負担分、そして公費負担分で成り立っています。掛け金徴収と患者の自己負担分ではまったく足りず、不足分を国や地方公共団体が拠出する形式になっています。
平均寿命が伸び、高齢化がすすめば、この34兆円は自然に増えていくのはいうまでもありません。そこで、この総額34兆円を抑制しようとする国策が続いていました。日本の場合、その政策は保険点数を切り下げる、あるいは伸びを抑制するという手法論が中心でした。

世界ナンバーワンの医療社会国家へ

目を転じて、仮に保険点数が固定され、変動がなくなった場合、医師患者間の医療行為の問題として、どのようになれば総額34兆円は増えるのでしょうか。まずは、それを考えてみましょう。

  • 末期医療において延命治療をすればするほど増える
  • 「念には念を」と考えて、検査すればするほど増える
  • 処方され手渡されたのに、利用されない薬(ゴミ箱行きの薬)が増えるほど増える
  • 身体機能の低下(麻痺など)が見られた場合、医療と介護の線引きが医療側に傾けば、増える
  • 患者が「薬局で薬を買うよりも、受診しよう」と思えば増える
  • 予防医学分野が健康保険化されるほど増える
  • 医師の先見力が低下して、受診頻度を増やせば増える
  • 医師の技術力が低下して、一つの病気に対して、より多くの治療を行えば増える。あるいは、医療機関の経営が悪化して、医師側が多くの検査と治療を行わざるをえないという状況になると増える
  • 「(人間ドック代わりに」検査してください」と要求する患者が増えるほど増える
  • 不治の病に対して、多くの治療に取り組むほど増える。また、研究を進めようという姿勢が深まるほど増える
  • 人体への侵襲の少ない治療を研究開発するほど増える
  • 患者への治療に対する家族の協力体制がなくなれば増える
  • 新しい治療方法を研究しよう(=試してみよう)とすれば増える

他にもいろいろあると思いますが、ざっとこんなところでしょうか。本来ならもっと増やして欲しい分野ともっと減らして欲しい分野が入り混じっているのが特徴です。
国民医療費34兆円が多いのか少ないのかに関する議論が多々あります。1人あたり医療費やGDP比、年齢構成状況などから語られますが、日本の医療費は先進諸国と比例して少ないという議論が支配的です。

さて、私はこの国民医療費に関して、どうあるべきだと思っているでしょうか。実は、「現状は極端に少な過ぎる。70兆円まで一気に増やし、世界ナンバーワンの医療社会大国にしなければいけない」と思っています。2番ではいけません。まさにナンバーワンであるべきだと思っています。増やす手法論に関しては、単純に保険点数を引き上げるという手法ではなくて、工夫が必要なのはいうまでもありません。

利益が支える「医療の充実」

国民医療費が増えると医療機関の利益が増えるという流れになります。それを国民が危惧する必要はあるのでしょうか?あるいは、国民が妬む必要はあるのでしょうか?政治家には「自己への還流の有無」という思惑が関係するかもしれませんが、そんなくだらない議論はここでは致しません。
医療機関が利益を捻出するようになれば、その利益はどこに使われるのでしょうか?くだらない遊興費になることはなく、使い先は「医療の充実」以外にありません。ほとんどの医療機関は、老人保健施設などの高齢化社会対応型施設の投資へとその余剰資金を使うことになります。それが本体の医療機関を充実させることになるからです。

医療機関に利益が出れば、医師個人の収入が増えるのでしょうか?残業、当直などの常識を逸脱する現状の待遇が改善されることはあっても、収入が増えると思うのは間違っています。働くものの現場には「労少なくして所得多し」となるような労働を認めない収入規律というものは存在します。医療機関に収益上の不安がなくなれば、医療周辺で仕事する人の数は確実に増えます。新しい資格が多数できることでしょう。健康教育にあたる健康指導士や介護周辺の人員レベルアップなどの周辺層の充実だけでなく、看護師に対して准看護師がいるように、准医師資格なんてものが出来て、少ない学費で、あるいはすでに社会人になっていながら、医師になれる道を作る端緒になるかもしれません。

国民皆保険の下地を持つ日本の国民医療費を数年で70兆円に引き上げれば、世界に誇れる医療大国となり、全国民の強力な安心と誇りを引き出せることは間違いありません。内需拡大云々などは別の議論にして欲しいものです。

財源問題解決のために

さて、問題はその70兆円の財源です。医師会や厚生労働省のほとんどの関係者は、国民皆保険を堅持して70兆円に増やすとしか思い浮かばないようです。それが間違いの元である、と私は判定しています。今の国民皆保険を維持して国民医療費を70兆円にするのは至難です。いや、まず不可能です。

そこで、私は医療構造改革の必要性を訴えています。医療社会の三分割、健康保険の掛け金を支払える人と支払えない人の峻別だけでなく、公費負担の財源以外に関して、健康保険掛け金収入は維持、あるいはわずかに低下させたうえで、予防医学、健康教育に関する部門の自費診療システムの大幅な導入、末期医療、ガン治療に対する民間保険の導入などが必要だと訴えているのです。

ただし、これらの実現の上では、健康保険の掛け金、自己負担分などの総額は変えない、あるいはわずかに低下させたとしても、医療行為の中身に対する保険点数の配分変更が不可欠になります。医師の手を使う技術(内視鏡やカテーテルでの治療、手術など)や難病への点数配分を飛躍的に増やせば、大病院への所得配分率が高まり、より優れた流れを作り出すことができると思っています。

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