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風本流医療構造改革・論議編

その9「別舞台の必要性」

警察とセコム

日本では警察組織が充実しています。しかし、一方ではセコムのような警備保障の会社が必要になっています。これはどういうことなのでしょうか?

実は警察の本来の役割は、起こった事件を調査して犯人を捕まえるという一点なのです。「何かの事件が生じたらすばやく効率的に、その後始末を行う」ということがメインの役割で、この業務が100%の成功率を発揮すれば、犯罪撲滅につながります。したがって、「それによって社会の治安秩序を維持する」が付加されます。つまり、どんな事件があっても、犯人を確実に逮捕できるようになれば犯罪が減るという論理です。

ところが、社会が複雑になると、犯罪防止という問題がクローズアップされ、個人が自分に対する犯防を希望するようになりました。前述のとおり、犯罪防止における警察の役割は、確実な検挙により社会全体に対して総合的防犯機能を発揮するというタイプのもので、個人の防犯は警察の役割ではありません。そこで、警備保障会社が登場したのです。最近、ストーカー問題などで、「不安を訴え出たのに警察が私を守ってくれなかった」などという指摘があり、それをマスコミがとりあげているようですが、この指摘は間違っていると思います。警察は「防犯何でも屋」ではありません。自分個人を守りたいときは、費用を自己負担して警備保障会社に依頼するのが筋です。

このような訳で、警察組織がいかに充実しても、警備保障会社が必要になるのです。また、同時に私設探偵組織も必要になります。警察がさじを投げた事件を警察OBでつくる探偵事務所が違う観点から解決した事件を私は知っています。探偵事務所の役割は、極秘調査だけではないのです。

私は、平成4年ごろにはこれと同様の論理で、日本中に健康保険制度下の医療がどれほど充実しても、必ず「健康保険ではカバーできない医療」「健康保険ではカバーしてはいけない医療」を行う専門機関が必要になると考えていました。自由診療である四谷メディカルサロンを創業した底辺要素でもあります。

健康保険制度下における医療の本来の役割とそれを超える患者の欲求

健康保険で提供する医療の本来の役割に関して論議編7で述べました。その役割は、健康保険という制限がある医療サービスにおいては、「警察が犯罪検挙に特化集中するべきである」という論理と同様に、専門職である医師の本来のストレートな役割である「病気になった人の治療」に特化集中させてあげなければいけない、という話に行き着きます。

保険医療には「説明不足である」という患者の知的欲求に際限なく答えることを要求してはいけません。また、予防医療という枠組みを保険医療に取り入れすぎてもいけません。患者からは「期待していい範囲」、医師からは「満たすべき範囲」を明瞭に区分することが健康保険制度を健全に発達させるために必要なことなのです。

「健康保険を使う医療で期待していいのはここまで」という範囲を明瞭にすれば、それを超える要求を満たすための別舞台が必要になります。平成7年の私の著作である「一億人の新健康管理バイブル」(講談社)にそれらが主張されており、私が四谷メディカルサロンを創業する際、最初に意図したのはこの別舞台づくりでした。

別舞台=メディカルサロン型クリニックの役割

「健康保険ではカバーできない医療」「健康保険ではカバーしてはいけない医療」を実施する医療機関(私はそれを創業時に「メディカルサロン」と名づけました。以後、メディカルサロン型クリニックといいます)ができあがると、その役割の第一は以下のようなものになります。

それは、入院してそれなりに大掛かりな治療を行う際、その病院での治療方針を肩代わりして説明することです。補足説明ではなく、重要説明そのものを行うことです。

通常は、治療を実施する病院に患者とその家族が集まり「こういう訳で、こんな病気であることが判明しました。この病気は、このようなものです。治療の方法としては、このようなものがありますが、今回の治療ではこれを行います。この治療は、こういうものです。弊害としてはこのようなものがあります。よろしいですか?」という説明がなされ、それに対する質疑応答が行われます。患者の家族によっては、強い猜疑の気配を発するものもいたりして、この質疑応答を含む一連の過程は担当医にとって荷が重いものです。医師側も、設備、技量、研究テーマ、新人育成などを総合的に考えて治療を選択したのが実情ですが、大義名分的に説明するのに冷や汗をかいていることもしばしばです。ときには、「初心者がゴルフショップに行って、店員にお任せしますと言ったりしたら、利益率のいい商品をすすめてくるに決まっているからなあ。すべてお任せしますと言いたいところだけど、それと同じになるしなあ」などとイヤミたっぷりに言い出す患者の家族もいます。言い出さなくても、かなり複雑な心中であることは察することができます。

治療説明に劇的な変革

「健康保険を使えない医療」「健康保険を使うべきでない医療」を実施する医療機関であるメディカルサロン型クリニックは、治療説明のやり取りに劇的な変革を加えることができます。
治療を行う予定の病院は、「こういう病気です。われわれが検討した方針として、こんな治療をする予定です。諸資料がここにありますので持ち帰っていただき、深くご検討ください」とだけ語ります。そして原則的にいったん帰ってもらい、数日後に返答をもらうことにします。もちろん、その場で「すべてお任せします」と返答してもかまいません。
返答までの数日の間に、患者と家族は資料を持ってメディカルサロン型クリニックを訪ね、そこで検討会・勉強会を行います。メディカルサロン型クリニックはその場で、患者教育を行うのです。

その結果、治療する病院に対して「その治療でお願いします」と返答するか、あるいは、「申し訳ありませんが、転院させていただき他の治療方針でいこうと思います」と返答するかのどちらかだけでいいのです。
この時点で、患者や家族は治療に対する深い覚悟と「大人の対応」ができるようになっています。メディカルサロン型クリニックで「大人の対応」を教育されることにより、治療トラブル等に基づく民事訴状などは根絶していくことが可能になるのです。

診断に至る過程、治療方針を立てた経緯、治療の結果どうなるかなどは、実際にその治療を実行しようとする医師の口から説明しないほうがいいのです。治療実施とは直接関与しない、メディカルサロン型クリニックで説明してもらえれば理想的です。

メディカルサロン型クリニックでの代弁説明

メディカルサロン型クリニックでは諸資料を精査、検証して、説明を代弁します。説明を代弁するだけではなく、その治療を選択することになったその病院の諸事情も説明します。他の治療にはどのようなものがあり、それを実施するにはどの病院が適しているかも説明します。
また、治療方針を定めるにあたって一番重要なのは、家族の主義、信条というものです。それを大いに取り入れて、患者と同一目線上で検討できるところに大きな価値があります。

そして、「医学というのは自然科学であり、実践する医療は確率論の積み重ねである。したがって、それを深く理解して適切な覚悟を持ち、今後は大人としての対応をしなければいけない。大人の対応とは・・・」という話をします。実際に治療する病院では、「大人の対応とは・・・」などという話は決してできるものではありません。

これらは、説明というレベルを超えて、「健康教育」へと進化します。

治療説明の場を大きな機会と考えて健康教育を展開する

少し考えるとわかりますが、この瞬間は家族の皆に健康、医療、人体というものを学習していただく最大の機会なのです。その機会を小さな成功で満足してはいけません。なぜならば、その時に与えた知識で、患者とその家族全員に今後の身体のことや医療との接し方に対して適正な感性を身につけてもらうことができるからです。
この機会をとらえて、「メディカルサロンに来て、話を聞いてよかった」という感動と感謝を与える内容を提供できなければいけません。その技法は私の中に研ぎ澄まされていますが、それを若い医師たちに早く伝授していきたいと願っています。

また、入院して大げさな治療を行う場合だけでなく、一般に外来に通院している病気の場合でも、メディカルサロン型クリニックでしてもらった話は役立ちます。「この病院でこんな治療を受けていますが、担当医の腹の内はどのようなものなのでしょうか?他にどんな治療法があるのでしょうか」という質問や相談は、一度はメディカルサロン型クリニックで行っておくべきものです。

さて、この種の教育活動を、時間をかけてじっくり行っていると、家族はやがては同じこと(病気)が自分の身に関与するのかどうかを知りたがります。つまり、遺伝性、家族性発生などの問題です。ここに至ったときに、思わぬ方向性からも健康教育と予防医学が同一線上にあるものであることに気づきます。

メタボ治療は健康教育が第一選択、実施の場は保険医療機関ではない

「健康保険を使えない医療」「健康保険を使うべきでない医療」を実施するクリニックが誕生すると、他の重要な役割に気づきます。

その一つがメタボリックシンドロームへの対処です。コレステロール、血糖値、中性脂肪、尿酸などに関しては、まず薬で治療するという概念ではなく、「健康教育」により改善させると考えるのが正しい選択です。ところが、健康保険を利用するクリニックは、薬を使うことに医師の本能が向き、健康教育を行うという方向に意識が向きません。つまり、「健康教育」の分野は、「健康保険を使うべきもの」ではありません。「痛い」「つらい」「かゆい」などの症状を訴えている患者を効率よく治療していくことが求められる保健医療に、このような予防医学分野=健康教育を負担させるべきではないのです。

薬を使うという選択がないメディカルサロン型クリニックで必要な教育を受け、改善する努力を行い、その結果を採血結果で確認していきます。頻繁に採血で確認できるということが重要です。回数を重ねると、「最近はこんな生活でしたので、今の数値はいくつぐらいです」と自分で予想することができます。私は、その辺について莫大な経験を積みました。

そこまでやっても、生まれつきの体質上の問題により改善が困難で、薬が必要になったときに初めてメディカルサロン型クリニックから健康保険の医療機関に、「いろいろ努力しましたが、遺伝体質上の問題で改善困難でした。医薬品による治療計画の遂行に関して、よろしくお願い申し上げます」という紹介状を書いて受診してもらうことになります。それがメタボリックシンドロームへの対処としての正しい筋道です。「健康教育」という分野はメディカルサロン型クリニックに集中させるべきものなのです。

メディカルサロン型クリニックの多彩な役割と社会的必要性

さて、「健康保険を使うべきでない医療」「健康保険を使えない医療」には、「健康教育」以外に、どのようなタイプのものが、他にあるのでしょうか。列挙してみましょう。

  • ダイエット医療
  • 遺伝子検査
  • 予防医学に関する検査全般
  • 健康管理指導
  • 子供の発育を見守る医療(「背を伸ばす医療」「頭をよくする医療」など)
  • 食事嗜好を補完するサプリメント指導
  • 精力回復に関する医療
  • 気力、体力、容姿を回復させる医療
  • 禁煙指導

などです。これらには社会的需要が大きく潜んでいます。これらの一つひとつに対して、私は深い実践研究を行ってきました。

ちょっとしたまとめ

このように話していくと、日本の医療組織を、「健康保険制度下の医療機関」「会計不要の国営医療機関」「メディカルサロン型医療機関」の3つに分類するべきであるという私の医療構造改革の基本設計図が見えてきます。私が生きているうちに3分割を実現し、メディカルサロン型医療のノウハウを若い医師たちに伝授していきたいものです。

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