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月刊メディカルサロン「診断」

攻めの予防医療の観点から掲載日2025年12月31日
月刊メディカルサロン1月号

攻めの予防医療

高市総理が、「攻めの予防医療」という単語を発しました。攻めの予防医療、積極的予防医療というのは、私が内科の自由診療を始めてしばらくたった頃(平成5~6年)から使い始めた用語であり、内科自由診療の経験なしで発想できる単語ではありません。私は奈良県の高市総理の地元で、よくセミナー、講演を行っていましたので、もしかしたら、ひそかに参加していた、あるいは、聞き伝わっていたのかもしれません。
何はともあれ、医師として健康管理指導という医療を営む中でしか発想できない概念が、総理の口から唐突に出てきたのですから、厚労省の官僚の皆さんは大慌てしたかもしれません。
しかし、その説明として、高市総理は人間ドックや健診の話へとつなげたのですから、官僚の皆さんは、「なんだ、それなら従来と同じではないか」とほっとしたかもしれません。あるいは、がっかりした人がいたかもしれません。高市総理の心の中には、私の商標的用語ともいえた「攻めの予防医療」の単語だけが存在し、その深遠な内容はあまりご存じなかったようです。わたしはがっかりでした。
私は、平成元年に医師になった当初から、患者に説明してあげるのが好きでした。患者と話し込んで、病状の解説、病状の未来像、その病気に対応している医師の腹の内などを話し込み、患者の悩みの大元を解決してあげることに、かなりの快さを感じていました。
苦しむ患者、悩める患者を救う第一は、薬ではなく、検査でもなく、かけてあげる言葉である、と感じていた珍しい医師だったのかもしれません。
私の学生時代は、家庭教師、塾の講師を務めるのが大好きで、相手が理解しやすい表現方法を模索し、考案し、それを試していくのをとても楽しく感じる人間でした。医師になった当初は、病気で悩む患者に語る言葉を工夫するのが、やはり楽しかったものです。「好きこそ、ものの上手なれ」です。説明の仕方には、磨きがかかる一方でした。
その選んで工夫した説明用語のレベルは、後に内科の自由診療につながり、それで「食っていけた」のレベルを凌駕し巨大化させたのですから、一般の医師に想像できる範疇を飛び越えていたと思います。

自由診療の原点

平成初期のころは、自分が「なぜこの治療をうけているのかがわからない」という患者が多くいたものです。医師の説明不足がマスコミにも取り上げられた時代でしたから、医師の説明不足がひどかったために、迷いながら通院していた人が大勢いたのです。自分の受け持ち患者には、私の説明は好評でしたが、やがて、私の受け持ちでない人が紹介されて私の前に現れ、「説明してほしい」の依頼が現れるようになりました。
そんな依頼に応えているとある人から、次のような話を受けました。当時私は29歳でした。
「ありがとう。よくわかった。先生の話は、病気に対する理解だけでなく、私が、自分の健康問題と接しながら、私の信条に対応して、未来にどのような道を歩むべきかの選択までを示唆してくれている。言ってみれば今日の話で、私は今後の人生設計を定めることができた。そんな素晴らしい話を無料で行ってはいけない、どのように謝礼していいのかわからないじゃないか。先生への相談を一回いくらと定めてほしい。そうしたら知人をたくさん紹介できる」
そういえば、「説明してあげる」は健康保険の点数設定がありません。「健康問題が発生した人に、本人の信条を聞き入れたうえで、わかりやすく説明して、未来の人生設計の指針まで与えてあげる」は、健康保険の枠内ではないのです。「自由診療?」という語が、私の脳裏に浮かんだ瞬間でした。29歳の私は、それまで、保険診療しか考えたことはなく、学者としての将来をイメージし、大学院生になっていたくらいですので、まさに宇宙から飛び込んできた想定外の概念の導入でした。
しかし、それだけでは、独立開業に思いが至ることはありませんでした。そこに、「アスピリンの衝撃」が加わります。これは、「病気でない人にアスピリンを一定量内服してもらい続けると心筋梗塞の発症率が約40%低下する」というアメリカの研究発表でした。当時、私は医師になって4年目でしたが慶應病院で内科外来を担当していた立場上、病気の人を治療する毎日でした。医療というのは病気の人の治療のためにあると思っていたのですが、病気でない人を対象とする医療が人間ドックや健康診断、予防接種以外に存在することに大きな衝撃を受けたのです。
その時、私の胸の中では、従来の人間ドックは「守り」、アスピリンは「攻め」という概念がすでに芽生えていました。病気でない人に提供する医療サービスの研究意欲に、私の脳内は充満し、平成4年9月のクリニック開設、プライベートドクターシステムの運営へとつながったのです。

プライベートドクターシステムと体重管理

「私がみている限り、あなたは重大な病気をおこしません。必ずや長生きさせてご覧に入れます」
を目標とするシステムなのですが、まず、取り組まなければいけないのは、健康教育でした。わずかに集まった会員に人体、健康、医療のことを学んでもらわなければいけません。腎臓がどこにあるか、肝臓がどこにあるかさえ知らないのです。心筋梗塞がどのようなメカニズムで発症するかさえ知らないのです。胃がんに対するピロリ菌のことなどまるで知りません。最初は、教えるためのスライドを制作して映写しながら、家庭教師のようなことを行っていました。
そんな中で、体重100㎏を超える人が入会してきたのです。得意の説明スライドを出して映写しながら、健康、人体、医療の話を進めたのですが、その人はその肥満体で、近所の医院から10種類以上の薬を出されています。業界新聞社の社長ですから、恐ろしいほどの知性派の人でしたが、自分の飲んでいる薬が何のための薬なのか、本人はまるで知りません。病院から出されているから黙って飲んでいる、というよくある状態でした。薬の一つ一つを説明するより、この人の場合は、体重を落としてもらうことが重要だ、というのは当たり前の発想でした。本人は十分にわかっているのですが、どうしても体重を落とせません。運動にも取り組みますが、本能がどうしても食欲に向くのです。
ちょうどそのころ、BMI35以上の人を対象として、医療用の食欲抑制剤が認可されました。当時、わたしは医薬品を仕入れて会員に処方するということを考えていませんでした。だから、その人には、「食欲抑制剤が最近、認可されていますから、いつもの薬を出してくれている担当医から、食欲抑制剤をもらって体重を落とすことに取り組んでください」と話しました。しかし、次回、その人は
「いやあ、その話をしましたが、担当医の先生は食欲抑制剤を出してくれませんでした」
と語りました。いろいろ取り組んだけど、どうしても体重を落とせなかった経緯があり、そのために10種類以上もの薬を飲んでいるのですから、当然、保険適応で食欲抑制剤を処方してもらえるはずです。なぜ、処方してもらえなかったのか? 理由はいくつかあります。

  • 担当医が食欲抑制剤の使い方を説明するのを面倒がった
  • 担当医が、食欲抑制剤のことを知らなかった
  • 食欲抑制剤を出して体重を落とすよりも、このまま毎月、多くの薬を出し続けるほうが良いと担当医は思った

のどれかです。私は自由診療を遂行していますので、保険で食欲抑制剤を出してあげるわけにはいきません。しかし、その人は、「体重を落とせるなら保険などどうでもよい。何とかしてほしい」と語りました。実は、私も、食欲抑制剤の使い方を知りません。薬の添付文書を呼んでも納得できない部分がありましたので、文献を取り寄せて色々調べ、その人への食欲抑制剤利用を始めました。その人は数カ月で、86kgへの減量に成功し、必要な薬は、わずか3種類に激減したのです。
以後、その人の紹介者から始まり、私のダイエット指導が始まりました。もちろん、肥満体のために健康トラブルを起こしているけれども、健康保険では処方できないレベルの過体重の人がほとんどでした。ただ薬を処方するだけの医療ではありません。本来が家庭教師型の医療ですから、体重増減の医学的原理をしっかりと教え込みながらの診療になります。体重を落とせば、その人の内服しているメタボリック系の薬が減っていきます。私は、来院者の内服している薬を減らしてあげることが快感になっていました。
体重管理指導をきっちりと行い、体重増減の医学的原理を身につけてもらい、医薬品を使ってでも、実際に体重を落としてもらう。それは、攻めの予防医療の一種になるのです。

攻めの予防医療の実践と規制の壁

健康保険適応として認可されている薬を、健康保険適応ではない人に、健康管理のために転用して役立たせる。いわゆる適応外使用となりますが、本人にとっては、非常に有益です。この分野では、プラセンタ注射、花粉症注射、成長ホルモン、経口避妊薬、性交後避妊薬などがそれに役立ちますが、全て適応外使用になります。攻めの予防医療においては、病気治療用の薬を健康管理用に転用するケースが多くなるのです。
人間ドックなどの検査体制を充実させて、「早期発見、早期治療に努める」のは「守りの予防医療」にすぎないのです。
平成7年に私が著した「一億人の新健康管理バイブル」(講談社)には、医師と知り合ったときに
「ああ、お医者さんですか。何かあったらよろしくお願いします」
などと挨拶していてはいけません。
「何も起こらないように、よろしくお願いします」
と挨拶しなければいけないのです。
という一節があります。これがまさに、「攻めの予防医療」なのです。なお、この著作のP194に「攻めの予防医療と守りの予防医療」という見出しの一節があります。30年前の私の言葉です。
ある人が心筋梗塞を発症しないようにするにはどうしたらいいのでしょうか? その人の身体を調べて、心筋梗塞に対して、「発症しやすい」「発症しうる」「発症しようがない」に三分類するのです。もちろん、医療は確率論が前提ですから、「絶対に発症しない」はありえません。しかし、健康管理指導上は「発症しようがない身体づくりを指導する」となります。その辺の表現上の差異には常識的な寛容性があって当然です。
しかし、ここで問題が発生します。現行の医療広告ガイドラインにおいては、「医療機関がそのような攻めの予防医療の指導を行っています」と広告したら、それは誇大広告であると認定して医療法違反で取り締まられるのです。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、胃がん、肺がん、肝臓がん、大腸がん、肺がんに対しても同様に分析し、指導します。
そのようにして、それぞれの死ぬような病気に対して「発症しようがない」という状況へと導く指導を行うのが、攻めの予防医療です。医学的見地から体調絶好調へと導くのも攻めの予防医療ですし、「90歳を超えても50歳に見える容姿を目指す」というのも攻めの予防医療になります。その指導のためには、病気の治療薬から転用した医薬品やサプリメントを用います。
今度はここで、そのような目的で病気治療薬を転用して適応外で使用すると公表したら、薬機法違反であると指摘されてしまいます。その目的を謳ってサプリメントを利用していると発表したら、当該サプリメントは未承認医薬品に該当することになり、薬機法違反であると指摘されてしまいます。

規制緩和への提言

高市総理が話した攻めの予防医療の実現のためには、自由診療のクリニック群が必要となります。その自由診療の医療機関の存在は自然発生的に、健康保険を実行する医療機関の過剰診療ににらみを利かせることになりますので、医療費削減には二重、三重で役立つことになります。
しかし、攻めの予防医療を遂行する自由診療のクリニック群を作るにあたっては、薬機法による広告規制の緩和、医療法による広告ガイドラインの一部解除が必要になるのです。
具体的には、低侵襲的医行為(体幹部への筋肉注射、皮下注射)の範囲での自由診療に限定する新たな適応設定、つまり、プラセンタ注射や花粉症注射の保険外診療における広告解除、数値により限定された保険適応に対する自由診療の場合の数値解除(ダイエット指導のBMI35、低身長治療の-2.5SDなど)、健康管理指導の目標設定に対する誇大表現認定の寛容化などです。逆に言えば、現状の法規制下で不可能なことを高市総理は宣言してしまったことになるのです。この分野(規制緩和)においても、私は活動を続けなければいけないのです。

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