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月刊メディカルサロン「診断」

食生活習慣月刊メディカルサロン2013年6月号

朝食抜きは健康に悪い?

平成10年ごろ、「朝食を抜くと健康に悪い」という話が出回っていました。テレビには栄養学博士が登場して、

「朝食を抜くと午前の血糖値が上がらなくなる。血糖こそが唯一の脳の栄養源である。だから、朝食を抜くと血糖値が下がり、脳も活動しない。したがって、朝食を抜くと頭が悪くなり、健康にも悪い」

という論法でした。
ほとんどの医師は、その話を聞いて???「血糖値が上がらなければ脳が活動しない」という話も、「血糖値が上がるほうが、脳は活動する」という話も変です。「朝食を抜くと血糖値が下がる」という話も承服できません。朝食を抜いても「血糖値は一定値のまま」であり、「その血糖値で脳は通常に活動する」というのが、この場合の真実のはずです。

作り話がもたらしたもの

しかし、テレビ番組では「朝食はしっかりと食べるのですよ」というメッセージだけが流されます。本来ならば「朝食を食べなければいけない理由とされた脳の血糖値云々、という話は間違えていますよ」と反論するのは医師の役割でしょうが、当時、テレビ番組に出演する医師は皆無でした。したがって、何者かの意図を受けた作り話ばかりが健康番組として展開されます。後に「あるあるなんとか」という高視聴率番組が打ち切られましたが、「番組スポンサーの意図を受けた作り話」の横行が原因です。

当時は肥満者が増えてきた時代で、ダイエットブームでもありました。そんな中で、「朝食を抜いたら太る」という話が横行しました。接待や交際で夜遅くまで飲食していた人が、朝起きたばかりで食欲が無いにもかかわらず、「朝食を抜いたら太る。健康にも悪い」と思い込んで、一生懸命に朝食を食べていました。その結果、さらにぶくぶくと太っていきます。

確かに、調練中のアメリカの軍人を対象として、1日に2000キロカロリーを2回に分けさせて食べさせた場合と、3回に分けて食べさせた場合の体重の変化を追った医学データがありました。結果は、3食に分けたほうが体重の減量度は大きというものでした。それを根拠として、「朝食を抜いたら太る」という話へと進展したのでしょうが、この話には前提があります。1日の総カロリーを2000キロカロリーに固定するというものです。朝食をとった結果、総カロリーが増えるのなら、それはかえって太ってしまうに決まっています。

「朝食はしっかりと食べなければいけない」というのは、背を伸ばさなければいけない成長期の子どもに限定した話であると思ってかまいません。しかし、テレビで医学根拠をわかりやすく語れる医師がいなかったので、「朝食を抜いたら太るし、健康に悪い」と世間は思い込み、夜遅くまで飲食しても、起床直後に朝食をとりますます太ってしまうという悪循環者が巷にあふれる時代になっていました。

大人の事情という“制約”

そんな矢先、私はテレビ番組で語る機会を得ました。そして、誰からか「接待交際の場では、相手に失礼になるので、食べないわけにはいかないですよ」という話が出たときに、私は、堂々と言ってのけたのです。

「夜遅くまで飲み食いして、太ってしまった人は、朝食を抜いてもかまいません。さらに、牛乳などの乳製品をやめると痩せやすくなりますよ」

その瞬間、司会者の顔色が変わったのに私は気づきました。そして、まだ若かった私は悟りました。「乳製品メーカーはテレビ局にとっては大切なスポンサーだったのだ。だから、乳製品は健康にいい」という話は大いに歓迎されるけど、「乳製品を控えなさい」という話をしてはいけなかったのだ、と。さらに、「朝食を抜いてもかまわない」という話に対しては、ある協同組合から抗議の連絡が入ったと直後に聞きました。なるほど・・・医学的根拠のある話は、スポンサーの利害と相反するから、テレビで語ってはいけなかったのです。テレビでは、ひたすらスポンサーに利益を誘導する話しかすることはできないのです(当然、以後、私はテレビ番組に招かれることはなくなりました)。

常識を変えた大ベストセラー

そのすぐ後に、三笠書房の編集部長が訪ねてきました。「あの話を書籍にして欲しい」との求めでした。快諾し、出来上がった書籍が『お医者さんが考えた朝だけダイエット』でした。60万部突破の大ベストセラーになりました。
体重が増えるか減るかは、一日に摂取した総カロリーで決まります。一日の摂取カロリーを減らすために、ひとつのシンボルとして「朝食を抜きなさい」という話を説示しました。真意は、一日の総摂取カロリーを減らす、ということです。

この当たり前な話が、大ベストセラーになったのです。テレビを中心とする当時のメディアは、「ダイエットのためには、これを食べなさい」という内容ばかりでした。したがって、世間も「ダイエットのためには何を食べたらいいのか」ばかりを考えていました。ダイエットのために「食べる量を減らす」という発想がなかった異常な時代でした。そんな中で、「食べる量を少なくしなさい」という話は価値観の一大転換となったのです。報道系の番組では、わざわざ「一日の総摂取カロリーを400~600キロカロリー減らすために朝食を抜く」というのを図解してくれたものまでありました。

それほどに「コロンブスの卵」的だったのです。以後、世間では「体重が増えるか減るかは、食べ過ぎているか、いないかの問題である」が常識として定着しました。スポンサーの意向を打ち破って定着させたのですから、日本社会の中で成し遂げた、私の大きな功績であると自負しています。
「そんなことくらい、医師であるなら誰でも知っているさ。たいした功績だとは思わない」という者がいるなら、ぜひともチャレンジして欲しいことがあります。「コレステロールが高い人は、乳製品の摂取をやめなさい」という当たり前の話を、メディアを通じて日本全国に広めるというチャレンジです。スポンサーの意向を打ち破ることがいかに至難なことかを思い知ることができると思います。

前述のような僥倖な経験に限らず、様々な辛酸をなめた経験も私の脳内には詰め込まれています。だから、私は一介の医師ですが、並みの医師とは桁違いの深さで社会を見つめることができています。そして、その社会に革命的改革を起こすにはどのような手順で、どのようなこと進めればよいかが手に取るようにわかります。私ももうすぐ50歳を迎えますが、私の脳が衰えるまでに、医療社会に貢献できそうなことは徹底的に行動したいものです。

栄養過剰時代に求められる健康管理指導とは

さて、人は「食べること」を唯一の栄養源として生きていますから、食欲を抑えることが難しいのは言うまでもありません。大抵の人は、お金と自由を得れば栄養過剰に陥ります。だから、栄養過剰時代における体重管理は難しいのです。
ライフスタイルや当事者の志向性に応じて、一日の総摂取カロリーを少なくする指導は、健康管理指導を行う医師の腕の見せ所です。その過程で、医療用の食欲抑制剤を使用することもしばしばです。しかし、薬はきっかけを得るための短期間の手段に過ぎません。結局はライフスタイルそのものの工夫に収束されていきます。メディカルサロンの診療現場では、まさに個別の指導が行われています。

最近は身についた脂肪量そのものよりも、脂肪の種類、脂肪細胞の性質、脂肪細胞が分泌する微量物質が、健康管理上は重要な意味を持つことが知られてきています。
脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンなどは、100歳以上の高齢者がぴんぴん元気でいるための必須物質であることも知られてきました。

メディカルサロンでは、もう10年以上も前から健康管理指導の現場で活かされています。

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