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月刊メディカルサロン「診断」

快感ホルモン月刊メディカルサロン2015年6月号

ドパミンが生む「快」の気持ち

私の著作に『もの忘れで絶対困らない本』(三笠書房)というのがあります。脳の構造や仕組みを解き明かしている本です。読んで学んでしまえば、人の脳内を見切って、人をコントロールするテクニックを身につけられます。タイトルと内容が解離しているので、誤解を招いたのが残念です。記憶力、性格をはじめとする人間の能力の原点を語っており、後世に向かって実に示唆的な書籍だと思っています。最近になって、この内容の一部から発するテレビ番組なども増えてきたように思います。
この書籍の一節で、脳幹部から前頭葉に向かって伸びる「A10神経」の末端から分泌される快感ホルモン「ドパミン」に関して解説しています。眼前のある出来事に対して、A10神経が刺激され、脳内にドパミンが満ち溢れると、「快」の気持ちになることを説いています。快感を得られるのですから、どんなケースでA10神経が刺激されて、脳内にドパミンが分泌されるかは、人間性を決める一因になります。

水泳の北島康介選手が金メダルを取った後のインタビューで「超、気持ちいい!!」と語っていたのはよく知られています。この「超、気持ちいい」をもたらしているのが、A10神経から分泌されたドパミンなのです。「俺ってすごいよね」という満足が底辺にあります。

傷をなめあう仲

酒場で仕事の愚痴を語り合い、上司の悪口を言い合っている男の集団を見かけます。不平、不満を言い、「そうだよね。君は悪くないよね」と言ってもらった瞬間、彼らの脳内はドパミンに満ち溢れます。「傷をなめあう仲」と表現されたりもします。ドパミンを求めて、傷をなめあっているのです。
愚痴の言い合いのリーダーになっている人がいます。その人は、他の者に向かって「上司に不満があるだろ。その思いを俺にぶつけてこい。俺がリーダーになって解消してやる」といい放った瞬間に脳内はドパミンに満ち溢れるのです。
自分の身の回りで生じた現象はすべて自己責任なのですが、自分に責任があると思いたくない者同士が、こういった仲間を形成し徒党を組み始めます。いったん徒党を組み始めたら、社内においては自分自身が不安定な立場になるので、その不安を解消するために、その勢力を大きくしようと仲間を引き込みます。そしてその徒党勢力を正当化するための大義名分づくりを始めます。
大元が「自己責任」の深い意味を知らない者達ですから、社会にとってはあまり役立たない集団となり、組織成長の足を引っ張る軍団を形成します。しかし、その者たち同士では、脳内に快感ホルモンが満ちています。この観点から社会を見ると、新たな見え方がなされます。

女の言いたい放題にどう対処している?

女が不平、不満、文句を語っている姿は日常茶飯事です。ある男に不平、不満、文句をぶつけているときには、二つのパターンがあります。眼前の男に、その男そのものに対する不平、不満、文句を述べているパターンか、他の男、他の女、あるいはある出来事の不満を述べているパターンのいずれかです。
不平の内容は、的を得ていることもありますし、まったく筋違いなこともあります。とにかく、文句言いたい放題の「モンキーモンコ」になっているのです。

女のモンキーモンコ状態に触れた時、男の対応は二系統です。「うんそうだよね。その通りだよね」という同意を与える応じ方。「何をくだらないことを言っているのだ。お前はバカか」という叱りつける応じ方。どちらで応じるかは、男の個性を決める因子となります。
女がモンキーモンコになっているとき、「そのとおりだ」と同意してあげると女の脳内は快感ホルモンであるドパミンに満ち溢れます。「お前はバカか」と応じると女の脳内はストレスホルモンが充満されます。
男にとっては、女の文句の正当性を真正面からとりあげて反論で応じるか、正当性の問題とは関係なく、同意することにより快感ホルモンで満たしてあげるべきかの究極の選択を迫られます。
女のモンキーモンコ状態に触れた時、あなたはどうしてきたかを振り返ってみてください。うかつな同意が別の問題を引き起こすこともしばしばですが、否定がより大きな問題を引き起こすこともしばしばです。同意してもらって快感ホルモンを分泌させてほしいと要求してきた女に対しての応じ方ですから、これは重要です。
振り返ってほしいのは、そんなモンキーモンコ話はくだらない話なので聞き入れないという姿勢をとってきたか、聞いてあげる姿勢をとってきたか。そして、感情で応じたか、冷静分析で応じたかです。眼前の女の振る舞いは、すべて男の自己責任です。

人物鑑識の勘どころ

成功した経営者の共通点は、人物鑑識に優れていることです。人を選抜して、目的を実現するための人間集団を作り、成功してきた人たちですから当然でしょう。鑑識の題材の一つとして、「この人は何を快感としているか?」を分析しています。逆に言えば、どんな人も経営者からは、快感ホルモンの出所を分析され、自分のその人物性を判定されているのです。

ふと、あることを思い出しました。私がまだ25~26歳の研修医のころ、ある右翼団体のボスが入院した際に担当医になったことがあります。そのボスは、私に語りました。「そこの若い先生よ。人を見るときは、その人が何でストレスを発散しているかを見ればいいよ。人は必ず何かでストレスを発散している。ストレス発散をしていない人はいない。そこを見極めることが大切だよ」と。
「外で物腰柔らかないい人なのに、家ではDV男になっている」などを理解するのは、「人は必ず何かでストレスを発散している」の法則を知ってしまえば、不思議なことでも何でもありません。
人の快感ホルモンのポイントを見定めて表社会の成功者になる人と、人のストレス発散ポイントを見定めて裏社会の成功者になる人。その人物鑑識の中身は表裏一体的なものですが、表現が異なるところが示唆的で面白いものです。

この原稿を書き終えた今、私の脳内は快感ホルモンで溢れています。つい先ほどまで、「原稿を書かなければ」というストレスに満ちていたのですが・・・。

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